袋小路

袋小路 物事が先に進まない状況になること。

清張と青春 ④

 十代半ば、母親とは衝突が絶えなかった。

 ある時は殺意を抱き、ある時は「死んでやる!」と叫んだ。思春期の大人への反撥、世の不平等や理不尽に対する嘆きである。そこで殺してやろうだとか死んでやろうだとか、物騒なことを考えていた時期もあった。

 しかし、当時は真剣になって親殺しの肩書きを欲した。殺害方法のヒントを得るためにあまりに夢中で読み込んだのでカバーはビリビリになっていて、それを発見した母親が言うことには、「流石私の子供(まさか娘に殺害計画を練られているとは気づかず自信たっぷりに)」なのであるから「流石私の母親」なのである。

 ビリビリのカバーはとっくに捨てたので丸裸になった文庫本、しかもページは珈琲に浸したみたいに茶色い、ページをめくる度微かに立ち上る実家の煙の匂いは当時の記憶を鮮明に呼び起こす。

 六畳の寝室や母親への反撥からくる殺意。今となっては跡形もなく消えてしまったが、「張り込み」を読むといつでも思春期のまっすぐな反骨精神を思い出す、それはまさに私だけの青春のバイブルなのだ。